2022年3月
東京外国語大学4年の吉村遼馬は人生のどん底にいた。
中学生の頃から海外で働くことを夢見ていた。外務省に入って紛争解決をしたかった。
大学生になってもその夢は変わらず、外務省職員になるために国家公務員試験を受験した。
不合格だった。
それならば一度大学院へ進学しようといくつかの大学院を受験した。
全敗した。
周りの学生が残りわずかな大学生としての身分を謳歌している中、吉村は心底焦っていた。
「人生積んだ。」
吉村は迫る2022年4月への希望を持てずにいた。
「就職活動」という選択肢
色々考えた。落ち込むだけ落ち込んだ。もうこれ以上落ち込んでいる暇はない。
選択肢は3つある。
1つ目に、来年度の院試に向けて浪人すること。
2つ目に、来年度の国家公務員試験に向けて浪人すること。
3つ目に、就活をして企業に入ること。
まず初めに思い浮かんだのは院浪人だった。しかし、院に入ることは吉村にとって外務省に行くための手段にすぎない。院で特に勉強したいことは無い。そんな状態で受験勉強に身は入らない。
1つ目の選択肢は消えた。
ならば来年度の公務員試験を受験しよう。夢だった外務省に入るために。院に入ることは外務省に行くための手段にすぎなかったが、外務省に行くことはずっと夢だった。これなら頑張れる。外務省に行けば紛争解決ができる。
本当にできるのだろうか。
外務省は日本が世界においてより良い立場になるように、日本人がより良い暮らしができるように動く機関。吉村が作りたいのは世界の全員が幸せになる社会。
もしかすると自分が外務省職員として日本のために働くことは、他国が損をすることに繋がるのではないか。
自分の夢は外務省に入ることではなく、世界の全員が幸せになる社会を作ることだった。自分の行こうとしていた道は自分が行くべき道ではなかった。道が無くなって初めて気づいた。
2つ目の道も消えた。
吉村に残された道は、『就職活動』のみになった。
4年3月からの就活
4年3月からの就職活動。自分に企業を選ぶ権利はないと思っていた。
手始めにいくつかの就活エージェントに連絡を取る。3月に採用を残している企業なんてほとんどないだろうと考えていたが、内定辞退などの理由で3月でも採用活動をしている企業は意外とあった。人気と言われるコンサル、メガベンチャーなどから話を持ち掛けられることも多く、難航するかと思っていた就職活動は意外にもスムーズに進んだ。
しかし、どの企業もピンと来ない。
企業が自社の利益のために動く。それは決して間違いではない。しかし、自分がしたいのは世界のためになる仕事。人を不幸にしない仕事。そんな仕事でないとやりがいは持てない。
適当に声がかかった企業に入ることは、吉村の自尊心が許さなかった。
パーツワンとの出会い
自分の夢を叶えられる企業を見つけられないまま3月が終わる。吉村は焦りを感じていた。しかし現実とは、人生とはそんなものなのかもしれない。この辺で現実と折り合いをつけるのがいいのかもしれない。そんな諦めにも近い感情を抱いていた。そんな時に頼っていた就活エージェントの1つからある企業を紹介された。
それがパーツワンだった。
パーツワンは自動車部品流通業界を変えることで世界を変えることを目標に掲げるベンチャー企業。車は人間の生活を豊かにする。一方で確実に地球環境を蝕んでいる。走行、生産、修理。自動車が使われれば使われるほど、地球環境崩壊へのカウントダウンは進んでいく。
自動車社会と地球環境。この2つが共存していく方法の一つが、修理時の中古部品の使用である。車の修理時に使うのは新品部品が当たり前という風潮が根強い。中古部品を使用することが広まれば、新品の部品を作る時の環境的負担が減る。つまり、中古部品流通の仕組みを社会のあたりまえの仕組みにすれば、地球と自動車が共存する社会を作ることが出来る。そんな社会を目指しているのがパーツワンだった。
自動車に興味は無かった。自動車リサイクルなんて尚更興味がなかった。でも、地球と自動車が共存する社会を作ることは自分の夢であった「世界の全員が幸せになる社会をつくること」に繋がるのではないか。思い描いていた形とは違うかもしれないが、ここなら自分の夢を叶えることが出来るのではないか。
パーツワンの一員になりたいと思った。
パーツワンの一員として夢を叶える
2022年10月1日、吉村はパーツワンへの入社から半年を迎えた。3月以前には思ってもみなかった日である。
パーツワンでの毎日は思考の連続である。自動車部品業界の未来を、そして世界の未来を変えるには常にプロとして最高レベルの答えを求める必要がある。思考を突き詰めることは難しい。しかし、今自分がやっていることは確実に誰かのためになっている。そう思うと、仕事に対する意欲に磨きがかかる。
2022年3月を振り返って、吉村はこう語る。
「あの時は死んだと思ってたけど道は一つじゃなかった」
夢に敗れて選んだと思った「就職活動」という道。しかし、まったく違う選択だと思った道は、気づけば自分の夢へと繋がっていた。